阪急東宝系の宝塚映画の制作で,特に話の設定が関西・神戸だということにはなっていませんが,六甲台や王子公園付近など灘区を中心に神戸・西宮市内各地が登場する.
雑誌「散歩なう201712号」のミニ附録にも掲載したコースです.
まず正門です.ここは神戸大学の正門.映画の中では主人公たちが通う楓高校として神戸大学のいくつかの校舎と,西宮市の神戸女学院でロケが行われています.
映画の監督は佐伯幸三,主演は中尾ミエ,園マリ,伊東ゆかりの3人で高校生役として登場.
他に植木等,ハナ肇,谷啓をはじめクレージーキャッツのメンバーや田辺靖雄,藤山陽子.高島忠夫や,後に日本初のボンドガールとなる若林映子(「007は二度死ぬ」1967)らも教師役で登場.
原作は後の官能小説の巨匠,川上宗薫による青春小説「先生・先輩・後輩」.
1963年という時代は前年に中尾の「可愛いベイビー」がヒットし紅白に初出場,公開時15歳の伊東,園と3人で「森永スパーク・ショー」というバラエティ番組に出演.渡辺プロがスパーク3人娘として売り出されていた頃です.またクレイジーキャッツも1962年に映画第1作「ニッポン無責任時代」が大ヒットし,紅白にも「ハイそれまでョ」で初出場.まさにこの時代の寵児たち総出演といった感じ.
正門右に神戸市バスの神大正門前バス停がある.阪神御影から六甲道駅,阪急六甲経由でこの正門前を通る神戸市バス36系統もこの1963年の営業開始で,ロケ当時はまだ開業前のころ.
神戸大学は1902年に神戸高等商業学校として創立.場所は現在の神戸市中央区野崎通,市立葺合高校周辺.1929年に大学昇格,神戸商業大学となり,1934年にここ六甲台に移転.この正門はその頃にできたものだろう.
正門奥の大階段から,六甲台本館を見上げる.1932竣工.
階段上から神戸中心部方向を望む.
六甲台本館前の3人娘.
説明板によると
左右対称の建物で,正面中央の上部に時計台,下部に3連アーチ窓と大アーチの車寄せ玄関をもつ.
西端の経済学研究科長室(非公開)は,1973年まで学長室として使用され,その優雅な内装は見るものを魅了する.1階の北東にある大教室は圧巻.2階には貴賓室,会議室大小12の教室があり,3階は大会議室以外すべて教室.玄関,階段,踊り場の床には市松模様のモザイク・タイルが張られ,目を楽しませてくれる.建物の外壁は淡黄色のスクラッチ・タイル張りである.スクラッチ・タイルは,櫛で引っかいたような縦線の模様をもつタイル.
軒下のパラペット部分は,ロンバルディア・アーチと呼ばれる小さなアーチの繰り返し模様のテラコッタ張りで仕上げられている.
設置当初は,「白亜の殿堂」と賞賛された.しかし戦時中は,この美しい外観が仇となる.「白々と空襲目標が山上に聳え立つのは迷惑である」と,周囲住民からクレームが相次いだ.まずは黒い布を垂らして建物のカムフラージュを試みたが効果なし.ついには黒いアスファルトで外観を塗りたくることとなった.垂れ落ちたアスファルトが玄関先を黒く汚し,みすぼらしい姿をさらして敗戦となる.新制神戸大学が誕生した当初も黒塗りのままだったが,今は美しい淡黄色に帰り,往時の威容を取り戻している.
腰壁のタイル
市松模様のモザイク・タイル
階段ホール
階段の手すりも艶かしい感じ.
櫛で引っかいたような縦線の模様をもつタイル
先の説明板で「黒いアスファルトで...」とありましたが,六甲台の眼下にある私の母校,高羽小学校も私が通っていた頃はまだ黒く塗られたままでした.
1972年.今を思えば,この色も戦時中の痕跡だった.
1976年には白く塗り替えられています.
キャンパスの説明板によると,
六甲台第一キャンパスの造成は1930/1/13に開始,翌1931年に新学舎の着工,1932/11に神戸商業大学本館(現:六甲台本館),1933/10に附属図書館(現:社会科学系図書館),1934/6に兼松記念館,1935/1に銃剣道場,1935/3に講堂(現:出光佐三記念六甲台講堂)が順次竣工.
その当時の空撮写真も現地のパネルにあった.
赤字は筆者の追記です.
社会科学系図書館
現在の姿
またまた説明板によりますと
建物の外壁は淡黄色のスクラッチ・タイル張り,軒下はロンバルディア・アーチのテラコッタ張りである.玄関ホールを入ると開放的な吹き抜け階段が正面に現れ,天井にはステンドグラスのトップライトが静寂の中に光が降り注ぐ魅力的な空間となっている.階段を2階へ上がると正面にメインカウンター,その奥に中山正實作の大作「青春」が出迎えてくれる.
メインカンターの反対側には「大閲覧室」があり,室内は心地よい緊張感が漂う.高い吹き抜けの大アーチ型天井にはアール・デコのデザインによるステンドグラスのトップライトが施され,重厚で歴史の重みを感じさせる木製の机がずらりと並ぶ.
床下換気口
通気口
搬入口の庇も特徴のあるギザギザ庇.
照明も素敵です.
ではキャンパス内をぶらぶら.
「静粛」に! 24時間,365日授業中のようです.
映画には登場しませんが,このキャンパスには,他にも魅力的な近代建築が揃い踏みしています.
兼松記念館.神戸商業大学商業研究所の施設として建てられました.
出光佐三記念六甲台講堂
貿易港ゆえダリンダリンな意匠の扉.
といっても矢井田瞳ではないですよ!
神戸大学の公式マスコットキャラクター,神大うりぼーですw
工学部を見下ろす.
中央が伊東ゆかり.その右に工学部の建物が見える.
現在は木立が繁り,すぐ下の工学部もちらりと伺える程度.
正門前の道路から西方を望む.神戸市街が見晴らしよく見えていた.
左下の木立に囲まれた台地は六甲ハイツ(進駐軍の住居)跡地.1958年に接収解除され,その5年後の姿.この後,1966年に農学部の学舎ができる.
今は崖下からマンションが建ちこんな感じ.
それでも少し山側の見晴らしの良い公園まで行くと遠く,布引・三宮・ポートアイランド方面が見渡せる.
崖側のガードレール.
リャマが荷物しょって登ってきてもおかしくない階段w 落ちるとただではすまなそう.
バス道より距離は短いので,昔は遅刻間際な学生が駆け登ったりしたのでしょうか.
神戸女学院でのロケ.
映画のストーリーは中尾宛に毎日かかってくる「貴女が死ぬほど好きです」という匿名の電話が誰からのものかを探すという,割と他愛のないもので,懐かしの青春ドラマといった趣の映画です.
その候補として挙がる教師の高島.
高島忠夫とその後をつける伊東ゆかりと園まり.灘区赤坂通2
現在の姿.
高島忠夫が店頭で公衆電話を使っているのを覗き見る2人.
高島が公衆電話をかける商店が林酒店(灘区赤坂通3) 改修されているが,少し山側に当時の姿を留める建物も.
林酒店側から坂道を見下ろしたところ.
勝手口が現存.右の電柱奥の角が,上で2人が覗いていたところ.
坂下から見たところ.素敵な赤屋根の家が残ります.
3人娘の背景の建物は旧関西学院校舎(1929年,西宮市上ヶ原に移転).現在は王子動物園動物科学資料館が建っている.
2017年の同じ坂道.左は王子動物園,右の石垣は王子スポーツセンターの補助競技場.
現地を訪ねたときちょうど女子学生が3人通り過ぎて行きました.こういう偶然が楽しいw
映画の中には他に,表六甲ドライブウェイや六甲山牧場,神戸港新港突堤での場面などが登場します.
2017/12に散歩.ではまた.
神戸大学六甲台キャンパス界隈の歴史
1902 神戸高等商業学校設立(神戸大学の創立)
1929 大学昇格.神戸商業大学となる.
1930 六甲台の新敷地造成工事開始
1932 神戸商業大学本館(六甲台本館)竣工
1933 附属図書館(社会学系図書館)竣工
1934 神戸商業大学が六甲台に移転 兼松記念館 竣工
1935 講堂(出光佐三記念六甲台講堂)竣工
1944 神戸経済大学と改称
1945 六甲ハイツ(進駐軍の家族住宅)の接収
1949 神戸大学設置(神戸経済大学・神戸経済大学予科・神戸工業専門学校・姫路高等学校・兵庫師範学校・兵庫青年師範学校)
1952 六甲台町に町名変更 (旧名称 高羽嘉太夫新田,他)
1952 サンフランシスコ講和条約
1958 六甲ハイツの接収解除
1961 鶴甲団地着工
1963 ハイハイ3人娘 公開
1963 市バス36系統運行開始 阪神御影-六甲台
1966 農学部設置(兵庫県立兵庫農科大学を神戸大学へ移管)
1967 鶴甲団地完成
1968 市バス36系統延伸 六甲台-鶴甲センター
1968 教育学部校舎竣工
1969 鶴甲会館竣工
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